研究紹介
今回は抗真菌薬による炎症増強効果に関する研究を紹介します。
カンジダ菌(Candida albicans) は、免疫が低下している人、例えば、高齢者やエイズ患者、糖尿病患者などで病原性を発揮します。カンジダ菌は真菌(カビ)ですので、カンジダ症の治療薬には抗真菌薬が使われます。アムホテリシンBは古くから用いられている抗真菌薬ですが、耐性菌の出現が少ないので非常に有用です。一方で、発熱や寒気を引き起こす副作用もあります。これは、アムホテリシンBがヒトの細胞に作用すると、炎症性サイトカインという細胞同士の情報伝達を担うタンパク質が必要以上に産生されるからです。アムホテリシンBは、ストレプトマイセス・ノドサスという細菌の産生物であるために、病原微生物の構成成分を認識するレセプター(Toll-like receptor)を持つヒトの細胞に認識されます。他方、歯周病では、歯周病原性細菌が増加しているので、それらの菌に含まれる成分であるリピドAがヒト細胞の炎症性サイトカイン産生を引き起こします。そこで、リピドAによる歯肉線維芽細胞の炎症性サイトカイン産生にアムホテリシンBが与える影響について調べました。
プラスチックシャーレに歯肉線維芽細胞を入れて、様々な栄養分を含んだ細胞培養液を加えます。さらに、アムホテリシンBとリピドAを加えます。24時間、ヒトの体内と同じような条件でこのシャーレを放置すると、歯肉線維芽細胞は炎症性サイトカインを産生します。歯肉線維芽細胞にリピドAだけを加えた場合よりもリピドAと共にアムホテリシンBを加えた場合の方が、炎症性サイトカインの産生が相乗的に多くなることが分かりました。歯周病は、歯周病原性細菌によって炎症性サイトカインの過剰な産生が誘導されることで組織が破壊されるものです。ですから、アムホテリシンBを歯周病患者に投与することで病態が悪化する可能性が考えられます。
以上の研究成果は、次の学術雑誌に紹介されています。
Amphotericin B upregulates lipid A-induced IL-6 production via caspase-8.
Journal of Dental Research 2012年4月25日オンライン掲載