研究紹介
私たちはいくつかのテーマを持って研究活動を行っていますが、今回は骨粗鬆症に伴う顎の骨の骨髄炎・骨壊死の発症に関する研究を紹介します。
骨粗鬆症は骨が折れやすくなる病気で、高齢化社会を迎えた日本では患者さんが年々増加しています。この病気の治療薬として使用されるのが「ビスフォスフォネート」です。大変効果のある優れた薬剤ですが、副作用として、顎の骨(顎骨)の炎症を起こすことがあります。これを顎骨骨髄炎・骨壊死と言います。特に歯科を治療受けた後で、起こることが特徴です。
そのため、ビスフォスフォネートを飲んでいる患者さんが歯科治療を受けることの是非やどのようにすれば骨髄炎・骨壊死を起こさないで済むのかが大きな問題になっています。骨粗鬆症患者の多くは高齢者で、歯科治療の必要な方が多いことから、この副作用の問題は早期に解決しなくてはなりません。
この謎を私たちは細菌学の立場から解明しようと研究し、すでに多くの結果を得ています。顎骨の骨髄炎・骨壊死の直接の原因は、口の中の細菌です。細菌が骨の中に侵入して、炎症を起こします。細菌がヒトの体の中に侵入した場合は、白血球が細菌を取り込んで殺菌してくれます。細菌を殺すために白血球はさまざまな物質を産生して放出します。それらの物質は細菌対して有害作用を持ちますが、ヒトに対しても傷害的に作用します。特に殺菌物質を白血球が必要以上に過剰に産生した場合は細菌を殺すだけでなく、ヒトの体を損傷してしまいます。
私たちは、ビスフォスフォネートを白血球に作用させると白血球にどのような変化が起こるのかを調べました。この実験は、細胞培養という方法を用いて行いました。
プラスチックシャーレの中の白血球です。
白血球をシャーレの中に入れている様子です。
プラスチックシャーレに白血球を入れて、様々な栄養分を含んだ細胞培養液を加えます。この白血球の入ったシャーレの中にさらにビスフォスフォネートと骨髄炎の原因となる細菌を加えます。24時間、ヒトの体内と同じような条件でこのシャーレを放置すると、白血球は細菌を殺菌する物質を産生します。白血球に細菌だけを加えた場合よりも細菌と共にビスフォスフォネートも加えた場合の方が、産生する殺菌物質の産生量が多いことが認められました。この殺菌物質は細菌だけに有害なのではなく、産生量が過剰な場合はヒトの骨髄炎・骨壊死を誘導する作用があります。
したがって、ビスフォスフォネートが白血球に作用して、殺菌物質が過剰に産生されると顎骨骨髄炎・骨壊死が起こると考えられます。
白血球の殺菌物質産生を調べています。
ビスフォスフォネートによって白血球の殺菌物質の産生が増強されるメカニズムの模式図です。
ビスフォスフォネートは、骨粗鬆症にとても有効な薬です、したがって、この薬の使用を停止するわけにはいきません。しかし、顎骨骨髄炎・骨壊死は起こらないようにする必要があります。ビスフォスフォネートの化学構造を変えることで、骨粗鬆症は抑えるが、白血球には作用しないようにすることができます。骨粗鬆症に対する有効性が劣るようになることが弱点ですが、このような薬剤も出現しています。また、口の中を清潔にすることで細菌の数を減少させることも大切です。細菌がいなければ、ビスフォスフォネートの刺激だけでは白血球から過剰に殺菌物質が産生されることはありません。
このホームページを読んで、興味を持った受験生の皆さんが本学に入学後、私たちと一緒にこのような研究に取り組んでくれることを願っています。