研究紹介
喫煙が歯周病のリスク因子であることが広く知られるようになってきました。事実、喫煙者は非喫煙者に比べ歯周病に罹患している割合が高い、あるいは歯周病の治りが悪いなど多くの臨床報告があります。そこで、歯周病の発症や進行に関わる喫煙の害作用についての実験的証拠を得るために、歯周局所における炎症反応に重要な役割を果たしている血管内皮細胞に対し、タバコ煙中の有害物質であるニコチンがどのような害作用を発揮しているのかを検索しました。
歯周病が進行すると歯槽骨*が吸収します。この骨吸収を促進するもののひとつとにRANKL*があります。一方、このRANKLの活性を抑制するものとしてOPG*があります。そして、この2つの骨吸収に関わる重要な因子の産生細胞のひとつとして血管内皮細胞があります。そこで、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をモデルとして用い、HUVECにニコチンを作用させた時のRANKLとOPGの発現動態を観察しました。
HUVECをプラスチックシャーレ上で培養したものにニコチンを添加しさらに培養を行いました。所定の日数培養した細胞からRNAを回収し、RANKLとOPGのm-RNA(メッセンジャーRNA)の発現をRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法で検索しました。
その結果、ニコチンを添加したHUVECにおけるRANKLのm-RNAの発現が促進されました。これとは対照的にニコチンを添加したHUVECにおけるOPGのm-RNAの発現は抑制されました(図)。このことは、ニコチンが血管内皮細胞からの骨吸収促進因子の産生を誘導するが、骨吸収抑制因子の産生は妨害することを示唆するものです。すなわち、喫煙者が歯周病に罹患すると、非喫煙者に比べ歯槽骨吸収が起こりやすくなる可能性を示しています。
* 用語解説
【歯槽骨】歯を支える顎の骨
【RANKL】Receptor Activator of NF-κB Ligand:NF-κB活性化受容体リガンド
【OPG】Osteoprotegerin:骨を防御する因子
このように、喫煙が及ぼす歯周病への悪影響についての基礎的知見が蓄積されようとしています。
口腔衛生学講座では、さらにこの研究を進めることで、証拠に基づいた口腔保健活動の実施を推進します。
(G3PDHはインターナルコントロールです)