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成長発育期に適用した機能的顎矯正装置の効果

福井 和徳
歯科矯正学 福井 和徳 教授

研究内容

奥羽大学歯学部成長発育歯学講座歯科矯正学分野の主な研究テーマは以下のとおりです。

  1. 歯列弓形状の解析
  2. プリアジャステッドアプライアンスの治療効果
  3. 機能的顎矯正装置の治療効果
  4. 矯正治療前後の口腔衛生評価
  5. 矯正治療後の咬合の安定性

 

今回は、テーマ3の「機能的顎矯正装置Twin block」に関する研究内容の紹介です。

 

矯正歯科治療は、器械的な装置と機能的な装置に分けられます。一般的に知られている矯正装置はマルチブラケット装置と称し、永久歯列の不正咬合に最も頻用されている固定式の器械的矯正装置です。この装置は1928年に開発されましたが、構造上の改良や材料学の進歩・発展により、現在ではシステマティックに個々の歯を正常な位置へ安全で確実に排列することが可能となりました。一方、機能的な矯正装置は器械派と対極をなし、可撤式で患者自身の口腔周囲筋の力を利用、あるいは排除することで不正咬合を修正します。

1936年に発表された代表的な機能的顎矯正装置アクチバトールを軸に幾つもの機能的顎矯正装置が改良・考案され、成長発育を利用した顎骨の位置修正や下顎骨の成長促進効果が報告されました。残念ながら治療効果については、否定的なものと肯定的な報告と二分されているのが現状です。そこで当分野では、下顎が後方に位置する上顎前突症患者を対象に、機能的顎矯正装置として頻用されているツインブロック装置(以下TB装置:図1)の治療効果を解明することを目的に以下の臨床的研究を行っています。

図1) ツインブロック装置 図2) 最大呼気流量計測

 

下顎前方移動で呼吸器系は改善されるのか?

 

混合歯列前期に下顎を前方移動することで肺機能の向上が得られるかを目的に、治療群14名(平均年齢9歳)、未治療群14名(平均年齢9歳)の最大呼気流量の計測(図2)を1年間行いました。その結果、治療群では未治療群と比較して下顎は前方に移動され、気道では中咽頭腔幅径と下咽頭幅径の開大を側面頭部X線規格写真で確認し、最大呼気流量値は有意に増加していました。これよりTB装置を早期に適用することで下顎後退症例の呼吸器系の機能向上が図れる可能性が示唆されました。

 

その他のTB装置に関する当分野の研究

 

  1. 上顎前突患者の上唇は無力です。本講座助教大植をはじめとする研究員は下顎を前方移動した時の上唇の運動量についてモーションキャプチャーシステムで動態解析を行いました。その結果、下顎をTB装置で4mm前進時に上唇の運動機能を回復する可能性が示唆されました。
  2. TB装置は機能的顎矯正装置の中で唯一食事中でも使用可能です。これより装置装着中にガム咀嚼した時の脳における機能的活性の領域と程度について本講座助教 中村、助教 廣瀬、助手 吉永は光トポグラフィで検討しました。これより、下顎の前進量により一次感覚運動野の脳活動に違いがあり、前頭前野では不快感情は上昇しないことが明らかとなりました。

 

* 用語解説

 

【混合歯列前期】すべての歯が多くの乳歯と少数の永久歯(上下の前歯と6歳臼歯の萌出)が混在している時期(6歳~9歳頃)
【最大呼気流量】できる限り深い息を吸い込んだ後、できる限り速く吐き出した時の呼気の流量。中枢の気道径が大きいほど最大呼気流量値は大きい。
【光トポグラフィー】近赤外分光法を用い無侵襲で大脳皮質の血液量の時間的変化を2次元動画像で表示する装置


今後の研究予定

テーマ3では、機能的顎矯正装置による下顎前方移動でなぜ良い顔になるのか?下顎前方移動後では口腔衛生の向上は図られているか?などを検討中であり、矯正歯科治療を早期に開始するエビデンスを発信したいと思っております。


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