研究紹介
解剖学は「生物体内部の構造・機構を研究する学問」とされています。この解剖学はさらに分類の仕方によりいくつもの種類に細かく分けられます。観察方法による分類では、肉眼でおこなう「肉眼解剖学」と、目ではとらえることのできない細かなレベルでの観察をおこなう「顕微解剖学」に分かれます。口腔解剖学分野では人体の肉眼解剖を主に担当しています。つまり、ご遺体を解剖させていただき、人体の内部構造について研究をおこなっています。現代解剖学の創始者とされるアンドレアス・ヴェサリウスの時代から500年ほど経過しておりますが、その重要性に変わりはありません。
頭頚部の内部構造を把握することは臨床をおこなう上でも非常に重要です。その基本を大学の授業では勉強していただきますが、皆さんの顔のかたちが十人十色であるように、人体の内部構造にも当然個体差が存在します。その人体内部構造のバリエーションをより詳しく調べていく必要があります。例えば切開を加える際に、皮膚や粘膜の下にどのように神経や血管が走行しているのかを知ることが必要になります。そこで人体内部構造の位置関係や形のバリエーションを事前に知っていることは大変重要になります。
また、歯についても同様です。歯は口腔内に出ているエナメル質でおおわれた「歯冠」と、通常は粘膜のなかで骨に植わっている「歯根」に分けられます。歯根のなかには歯の内部に入る血管神経が通るトンネルである「根管」があります。通常のレントゲン写真では歯のなかに最も暗い像としてみられます。虫歯が酷くなりここまで細菌が入ると、この根管の掃除が必要になります。当然、掃除に先立ち、根管のかたちは把握していなければなりません。下顎第二大臼歯を例としますと、多くの場合で2根3根管、すなわち歯根が2つで根管が3本あります。しかし、実際の歯根数と根管数にはさまざまなバリエーションが存在します(図1)。また、下顎第二大臼歯は一定の比率で「樋状根」という特徴的な形態をした歯根がみられます(図2)。樋状根では字のごとく「樋」いわゆる雨樋のかたちをした根管をもつとは限りません。このように目視できない部位についても、その可能性について把握していることにより適切な対応が可能になります。そのためにはイメージで理解するのではなく、多くを観察することが必要です。これにより、人体内部構造について、適切に把握することが可能になります。
図1.下顎第二大臼歯の歯根と根管のバリエーション(歯科用CT画像)
図2.樋状根の歯科用CT画像
口腔解剖学分野では人体の内部構造を肉眼的に観察することにより歯科医療の安全に貢献することを目的に研究をおこなっております。