研究紹介
奥羽大学歯学部口腔外科学講座ではこんな研究をしています。
今回は、当講座における神経筋組織の損傷と機能再生に関する実験的研究を紹介します。
口腔顔面領域の外傷や大きな手術では、傷跡や切断された神経による麻痺、運動機能の消失など審美的に大きな障害が残ります。従来、神経切断や機能消失に伴う審美的な障害や運動麻痺は、「仕方ない」と諦められてきました。しかしながら15年程前、神経支配を完全に失った骨格筋の筋膜内へ、切断直後の運動神経断端を直接移植する実験を行った結果、移植した部分の筋組織に新たな神経支配と筋線維の機能再生を意味する「AChE活性」と「type2C線維」の出現を確認できました。すなわち神経支配を完全に失い萎縮した筋線維にも機能再生の可能性があったのです。この後の平成9年6月に「咬筋剥離後の回復経過に関する実験的研究」、平成10年10月に「脱神経筋と再神経支配筋の組織化学的ならびに免疫組織化学的研究」、平成10年11月には「開閉咬筋の発育・分化と神経支配に関する研究」として報告をしてきました。
一方、実験結果は臨床的に反映されなければなりません。そのため「神経支配を失うと筋肉はどこまで萎縮するのか?」、「どの程度の萎縮なら回復する可能性があるのか?」、また「神経支配が断たれずとも筋組織への直接的な損傷や断裂は形態や機能にどんな影響を及ぼすのか?」を検索する必要性がありました。そこで、手術侵襲による筋の断裂や筋線維同士を縫合した実験モデルを作製し、その経過を観察しました。その結果、筋線維の形態や機能に最も大きな変化を及ぼしたのは、筋線維を断裂させることや筋線維を縫合することではなく支配神経の切断だったのです。すなわち神経支配が筋の形態と機能の維持に最も重要な役割をはたしていたのです。そして、損傷があった場合には何よりも優先して修復しなければならない組織だったのです。
機能再建に対する神経再生の重要性に着目してから、神経線維の成長促進や神経再生に関与する実験を模索してきました。そして現在、「末梢神経損傷部への嗅神経被膜細胞(OEC)移植の有用性」と題して実験を行っています。
中枢神経の組織に近い嗅神経被膜細胞(OEC ; olfactory ensheathing cells)に、全く異なった形態を有する末梢神経の再生を示唆する所見が観察されたことの有用性は大きい。これまでに報告がない新しい発見であることは勿論であるが、いま現在、感覚異常や運動麻痺によって日常生活に支障を来たしている患者さんにとって、大きな希望である。これらの成果とともに更に気合が入る研究を進めたい。
ATPase染色
筋線維の横断面:神経支配を失うと筋線維は細くなり萎縮する。一本一本の大きさがバラバラで運動活性がないため全ての線維が灰色がかった茶色である。