研究紹介
奥羽大学歯学部歯科補綴学講座(有床義歯学)で取り組んでいる研究テーマは次の通りです。
今回は、6.インプラントの生体力学的検討の一部をご紹介します。
講座の名前となっている歯科補綴(ほてつ)とは、歯の一部や、歯そのものを失った場合に、人工物によって形態や機能を回復することを意味します。私たちの部署では、歯に被せるクラウンや、1~数歯を失ったときに残りの歯で支えるブリッジ、取り外し式の部分入れ歯や総入れ歯などを駆使して、食べ物を噛んだり、発音、見た目の美しさを回復することで、患者さんの健康を維持し、生活の質を向上させるための研究や診療に取り組んでいます。
現在では、失った歯の形態や機能を回復する上で「歯科用インプラント」は重要なツールの一つとなりました。金属やセラミック製の人工歯根を顎の骨に埋め込み、これを土台として歯を作るため、取り外し式の入れ歯が必須であった方が、固定式の歯でしっかり噛めるようになったり、ご自分の歯を削らずに治療できるという利点があります。しかし従来の方法に比較して歴史が浅く、完全に解明されていない部分も多く残されています。
私たちは、インプラントの生体力学的検討の一つとして、インプラントを支台とするオーバーデンチャーに関する有限要素解析を行っています。上顎もしくは下顎の歯を全て失った方に対しては、4~8本のインプラントを土台とする固定式のブリッジを装着するのが最初に行われた治療法です。その後、2~4本のインプラントを支えとする取り外し式の入れ歯による治療が行われるようになりました。これがインプラント支台オーバーデンチャーです。顎の骨が痩せて多くのインプラントを埋められなかったり、インプラントを埋める手術の侵襲を少なくするために本数を制限する必要がある場合でも適用できます。しかし、固定式のインプラント・ブリッジより長持ちしない場合があるという報告がなされました。私たちは、原因として力学的な要因が関与していると考え、当講座の渡邊浩秀助教は有限要素解析によってインプラント周囲の骨に加わる応力を調べ、力学的に有利なインプラントの配置を検討しました。
まずインプラント(図1)とインプラントを埋め込んだ下顎の左半分(図2)のモデルをコンピューター上で作成しました。さらにオーバーデンチャーを装着し、その上から咬合力を加え、周囲の骨に加わる応力を算出しました。
応力分布を示すコンタ図(図3)では、青→緑→黄色→赤となるに従って応力が集中していることを意味します。図2に示す様々なモデルで解析した結果、下顎全体に対して2本のインプラントによる設計は不利であり、4本のインプラントをオーバーデンチャーの四隅に配置するか、インプラントを6本用いるのが望ましいことがわかりました。
当講座では継続的にインプラントの有限要素解析に取り組んでおり、当講座に在籍していた古橋拓也専攻生は、インプラントの被圧変位性を実際のデータに近似させたモデルを作成してインプラント周囲骨の応力解析を行いました。また研究チームでは、顔面補綴装置用インプラントについての検討も進めています。
* 用語解説
【オーバーデンチャー】歯根あるいはインプラントを被覆する形態の取り外し式義歯
【有限要素法】構造物を分割された小片の集合体として数学的に解析する方法
【応力】荷重に対する材料内部の抵抗力
【咬合力】噛み合わせによって上顎、下顎の歯もしくは人工歯の間に発現する力
【顔面補綴装置】顔面の欠損を修復する人工装置
インプラントの生体力学的検討としては、顎の条件や噛み合わせの設定を変えた場合のインプラント支台オーバーデンチャーの解析を進めます。またインプラントと天然歯を連結した場合についての検討も行う予定です。